見えてきた「育成就労制度」の全容と2024年の外国人労働者の受入

監理団体も受入企業も必読法改正徹底解説

この記事では、政府の有識者会議が技能実習制度の抜本的見直しを提言し、新たな「育成就労制度」への全面移行を打ち出したことをお伝えしています。

【技能実習制度、「育成就労制度」に変更へ】

政府の有識者会議が取りまとめた最終報告書では、30年近く続いた技能実習制度は抜本改正が不可欠と判断し、新たな「育成就労制度」への全面移行を提言した。

人権侵害や劣悪な労働条件が長年指摘されてきた現行技能実習制度は、制度の目的と実態の乖離(かいり)が見え隠れする状況が改善されてこなかった。このため全廃し、実態に即した新名称の育成就労制度を創設することで、外国人材受入れの透明性向上と適正化を図る。

新制度では、外国人材の円滑な受入れと技能向上を主目的と位置付ける。母国との技能移転よりも日本国内での人材活用を優先し、介護や建設、農業など特定産業への集中投入で労働力不足の緩和を図る。来日から3年程で一定水準の専門性と言語能力を身につけさせ、より高度技能を要する在留資格へのステップとしての位置付けを明確化する。

さらに移行措置として、既に技能実習制度で日本に滞在している外国人については、一定の要件を満たせば新制度の対象とすることで、在留期間の延長を認める方向で調整している。

【農家は人材確保に期待と負担増への懸念】

新制度創設について長年技能実習生を受け入れ、農業分野で外国人材を活用してきた農家からは、期待と懸念の双方の声が挙がっている。

イチゴの特産地として知られる茨城県の農場代表は、実習制度が人手不足補充の受け皿として機能してきた経緯から、育成と並行した人材確保目的の明確化は評価できると述べた。外国人材なくして農場経営が成り立たなくなっている実態がある以上、長期的な人材定着に繋がる制度設計への期待感を表明した形だ。

他方で転籍要件が大幅に緩和された場合、育成に費やした労力と投資の見返りが得られない懸念が示されたほか、新たな費用負担が発生する点についても農家経営への影響への注意喚起がなされた。特に移行後の支援体制が十分でない状況下で制度運用が開始されれば、離職や失踪へのリスクが高まりかねないとして慎重論も示された。

【支援団体はサポート体制強化を訴える】

技能実習制度下で日本での就労を選択した外国人材に対する支援を行うNPO法人関係者からは、制度改正の方向性について概ね評価しつつ、制度移行後を見据えた体制整備の必要性を訴える声が相次いだ。

ベトナム人技能実習生の保護支援に取り組むNPO法人代表者は、転籍の大幅緩和による労働環境や賃金改善の効果に期待を寄せつつ、言語面で不安を抱えたまま新たな職場に配属された場合、パワハラなどの人権侵害が発生するリスクがあると指摘。外国人材に不案内な官公庁窓口での手続き対応力不足が予想されることから、制度移行に合わせた支援体制の整備が不可欠と主張した。

専門家からも、深刻な人手不足に直面する現状を鑑み、日本への外国人材依存度が高まる状況が避けられない以上、言語教育など生活面でのサポートと並行し、安定的な雇用環境を確保するため企業側への配慮も必要との指摘が相次いだ。経済負担や国益への影響を踏まえ、運用面での調整余地が十分残されるべきだとする意見も多かった。

参考記事:NHK WEB NEWS https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231124/k10014267741000.html

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専門家に聞いたここだけの育成就労制度のQ&A

Q1. 育成就労制度の対象となる産業分野や業務区分は、どのように設定されるのか?

A1. 新制度の産業分野・業務区分の設定にあたっては、特定技能制度のそれらをベースに、国内での就労を通じた育成に馴染まないと考えられる分野・業務を除外した範囲で対象範囲を特定することとされている。つまり特定技能制度に追加されてない職種は外国人労働者の受入ができない可能性があると言われている。

Q2. 育成就労制度での受入れ数には上限が設けられるのか? 経済情勢に応じた柔軟な変更は可能か?

A2. 新制度では受入れ対象分野ごとに上限数を設定し、経済情勢の変化に応じて受入数や対象分野の見直しを適時適切に行う。その際、有識者会議の意見を踏まえ政府が判断する。とはいえ社会情勢を鑑みれば規制緩和方向に判断がなされることから、受入人数はさらに拡大すると考えられる。

Q3. 育成就労制度では転籍条件が1年以上の就労と大幅に緩和されるとのことだが、転籍前の企業への補償はどのようになされるのか?

A3. 本人希望による転籍の際には、転籍前の企業が負担した費用について、正当な補填を受けられるような措置を講じることとされている。不明瞭な点が多いため転籍者を受入する企業と転籍される企業との間で調整し、受入企業の負担を軽減処置が設けられるようになってくるのではと予想される。

Q4. 育成就労制度における監理団体や受入れ機関の要件厳格化の内容は何か?

A4. 監理団体については独立性・中立性の確保のための強化や、受入機関数に応じた要件の厳格化などが盛り込まれている。外国人通訳の有無も要件の一つと考えられる。ただしデジタル合理化で効率よくハイレベルな対応できているところに対して人海戦術的な評価要件では時代のニーズに沿っていないので、評価要件は随時追って確認する必要がある。

Q5. 育成就労制度から特定技能制度への移行要件として求められる日本語能力のレベルはいくつか?

A5. 新制度から特定技能1号へ移行する際には、日本語能力試験N4以上(当分の間は相当する講習も可)の日本語能力が求められることとなる。介護分野の場合は以前から育成就労制度の日本語基準を超えている。

Q6. 育成就労制度の育成途中で特定技能制度へ移行する場合の要件は?

A6. 新制度の育成途中で特定技能1号へ移行する場合の要件は、本人の意向に基づく転籍が認められる場合と同様の要件を満たしていることとされる。転職ではなく社内のキャリアップ制度として有効に活用していただきたい。

Q7. 登録支援機関の要件厳格化では具体的に何が改善されるのか?

A7. 登録支援機関について要件を厳格化するとともに、支援実績や委託内容・費用等に関する情報公開を制度上位置付けることで、支援の質・透明性の向上が図られる。

Q8. 二国間の取決め強化により、送出機関の規制はどのように変わるのか?

A8. 政府間の二国間取決めに基づき、送出国側による送出機関に対する法令遵守の徹底指導や制裁措置の強化などの取締りの強化を実現する。ブローカー排除を正しく定義することから始めなければ、特定技能のように日本国外のリクルート業や教育委託業などの専門業務遂行者まで排除してしまう可能性がある。

Q9. 外国人と受入れ機関の送出しコスト分担ルールの詳細は?

A9. 新制度では送出しに係る費用負担の適正化を図る仕組みの導入が提言されているが、具体的な外国人と受入機関の分担方法や割合等の詳細については今後検討される。ただしこれまでの業界の事例を基に見れば送り出し機関は株式会社の営利事業で競争が激しく、過度の価格競争は避けて通れないため法的制限の下限値が全体的な基準コストになると予測できる。

Q11. 育成就労制度の導入スケジュールはいつ頃か? 現行制度利用者への経過措置は?

A11. 政府は2023年度内に法案を国会で成立させ、2024年度から新制度を段階的に運用開始することを目指している。現制度利用者への経過措置も検討される。現在移行の前に技能実習制度のメリットを求めて採用依頼の問い合わせが急増している。地域間の競争に不利な企業は移行前に制度の活用見直ししていると考えられます。

Q12. 監理団体と実習実施者の兼業規制はどの程度緩和されるか?

A12. 監理団体と受入機関の関係者による兼業については、業務の独立性・中立性を確保するための強化措置が求められるものの、必ずしも完全な禁止とはされない。簡単に言えば、これまでのように理事を務める組合会員企業でも制度を利用できる。このため大手企業は監理団体と海外現地学校の運営に携わるケースが目立つ。送り出し機関として大手受入企業と競合にならないように譲歩を求められることがある。

Q13. 育成後の帰国者の再入国要件はどのように緩和されたか?

A13. 新制度に基づく在留期間が2年未満であれば、一旦帰国後に再入国が可能で、その場合も含め最大5年まで活用できることとされた。これにより、結婚や子育て、両親の介護など個人的な理由で途中帰国した者の再雇用に役立つ可能性がある。

Q14. 地方や中小企業への育成就労制度導入の影響は大きいと予想されるが、支援策はあるか?

A14. 地方や中小企業での育成就労制度導入への影響を軽減するため、政府による制度概要の丁寧な情報発信や補助制度の創設などを通じた支援を行う。送り出し機関は日本の地方都市が主な取引先のため、実質的に日本の地方の悩みは送り出し機関の悩みでもある。地方格差で首都圏が優秀な育成人材を吸収する動きは新制度の転職条件緩和でどこまで問題になるのか未知数ではあるものの潜在的な社会問題ではあると考えられる。

※これらの回答は、2023年11月30日時点での有識者会議の資料やニュース発表を参考にされています。新制度が開始されるまでに変更が生じる可能性が十分にありますので、参考程度にお考えください。

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【育成就労制度の懸念点のまとめ】

育成就労制度の根本的な改革を唱えつつも、多くの課題が存在する地方企業の人材流出と企業の負担増加が制度の実効性を損なう恐れある。

日本政府が推進する育成就労制度は、特に介護業界などで外国人労働者、例えばベトナムからの人材の確保と育成を目的に、技能実習制度の大幅な改革を目指している。しかし、その大胆な改革の背後には、介護分野をはじめとする数多くの弱点が存在し、スムーズな運用が疑問視されている。

新制度では、特に介護分野での転籍の条件が大幅に緩和されるが、これにより、ベトナムなどの国々から来た育成された人材が他社へ移る可能性が高まり、育成にかかったコストの回収が難しくなるという懸念がある。受け入れ企業にとっては、転籍に際して補償制度の設置や育成体制の強化が必要となり、新制度の利点を享受することが困難になるかもしれない。

また、ベトナムからの労働者受入れが盛んな都市部では制度の活用が進む一方で、介護をはじめとした地方での取り組みが遅れる可能性があり、その結果、地域間の不均衡が拡大する恐れがある。加えて、実際の労働環境がどれほど改善されるのかも不透明である。

特に中小規模の介護企業にとっては、大企業と比較して制度運用における行政的な負担やコストの増加を吸収することが難しく、ベトナムなどからの人材の新制度の導入に遅れが生じる可能性がある。その結果、業界全体での制度の定着も遅れることになるだろう。

多くの課題を抱える育成就労制度ではあるが、根本的な改革を掲げる以上、これらの懸念に適切に対応し、スムーズな運用を実現することが不可欠である。特に、単なるベトナムからの人材流出を防ぎ、実質的な育成を行うためには、介護を含む受け入れ企業の支援や地域間の格差をなくすための政策が重要である。重要な公約を掲げながら、制度が形骸化することは絶対に避けなければならない。

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